ポーカーアドベントカレンダー2025 9日目|Hiruma|なぜ1円も得しないのに、他人に熱狂するのか

本記事は〔ポーカーアドベントカレンダー2025〕 9日目の記事となります(全体一覧はこちら
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朝、駅前の交差点を待っているわずかな時間。ポケットに手が伸びスマホを取り出す。Xを開いてタイムラインを固唾を飲んでゆっくりとめくる。

(残り4人か…)

信号が変わり、スマホを手に歩き出す。

駅のホームで、またXを開く。電車に乗り込んでも、またXを開く。

さっき見た投稿を再び見ながら、安堵する。

仕事場に着いてパソコンを開いても、充電しているスマホにすぐ手が伸びてしまう。

僕たちは”報酬”を愛するポーカープレイヤーだ。

しかし、しかし!
1円も得しないのに、熱狂してしまうのだ。

他人が優勝しても、自分のお金は1円も増えない。

けれど、画面の向こうのチップが増えるたびに、呼吸が早くなる。
よくは知らない誰かの All-in に、祈ってしまう。

どうしてこんなことが起きるのか。

理由は、ずっと曖昧だった。

だが、最近ようやく気づいた。
僕たちは、自分の中に潜む“ある本性”を、知ってしまっているからだ。

“人の皮を被った鬼”のゲーム

トーナメントに参加する理由は、はっきりしている。

報酬。

金銭、名誉、優越、承認、自尊心。
あらゆる“報酬”を奪い合うために、僕たちはテーブルに座る。

参加費もルールも条件も同じ。生まれも育ちも、辛い過去も関係ない。

その瞬間、自分の出せる限りの技を繰り出し奪い合う。スタックは雪のように溶けてしまうこともあれば、炎のように燃え上がることもある。

綺麗なことを言っても、ポーカーはどこまで行っても奪い合い。

僕たちは、皮を被った鬼なのだ。

奪い合いだから、敵だ。鬼にならないといけない。
目の前の8人は、誰一人として味方ではない。

だが、奇妙なことに——。

その敵が、いつしか“同志”に変わっていく。

この違和感を、僕はずっと説明できなかった。

孤独と、失望

ポーカーは孤独だ。プレイヤーである鬼も孤独だ。

起きたことはすべて自分で受け止めないといけない。

甘い罠はないか、どこか爆弾は潜んでいないか。

掴みかけた優勝も、数秒で手からこぼれる。

やっと叶うと思ったら、裏切られる。

誰も花を差し出してはくれない。

僕たちは知っているのだ。

孤独と失望の深さを。

そして、その孤独と失望はどんな鬼にとっても同じだということも知っている。

だからこそ——
その孤独の中、世界で戦う誰かを見ると、僕たちは胸が熱くなる。

嫉妬は、尊敬に

敵として、強いプレイヤーを目の前にすると、嫉妬が生まれる。

自分は必死になって優勝を目指しているのに、何度も優勝するプレイヤーがいる。

「なんであいつだけ」

「運がいいな」

そんな黒い感情は、誰でも抱く。

しかし、その孤独に誰よりも長く向き合い続ける姿勢にこそ、私たちは尊敬を抱いているのではないだろうか。

強い者ほど、深い孤独にいる。

そこに、自分の影を見る。自分の失望、無念の記憶が映り込む。

だからこそ、敵であったはずの相手に僕たちは

「勝ってほしい」

と願ってしまうのだ。

これは鬼同士の共犯関係。

2025年6月29日、岡本詩菜さんが WSOP を制した日、
2025年9月12日、小原順さんがTritonを制した日。

その熱狂は凄まじかった。

それはただの応援ではなく、仲間意識を越え、

「孤独を知っている」

奪い合いの最前線に立つ感情を共にしていた。

偉業は、レガシーに

岡本詩菜さんがWSOPで優勝した瞬間。
小原順さんがTritonで優勝した瞬間。

個人の偉業は歴史を越えて、ポーカー界のレガシーになった。

それはこれからも脈々と受け継がれる。

僕たちは、1円ももらわない。

でも、心は満たされる。

理由はひとつだ。

「歴史を刻む、共犯者だ」

と感じられるから。

2人とも「普通」のキャリアを捨て、ポーカーを学んで学んで学んで学んで学んで来たのだ。

偶然だけで、勝てる世界ではない。

他人の成功に熱狂できるのは、
その瞬間、僕たちが“他人ではなくなる”からだ。

なぜ1円も得しないのに、熱狂してしまうのか

答えは簡単で、そして複雑だ。

ポーカーは“報酬を奪い合う鬼のゲーム”であると同時に、
“孤独と失望を共有するゲーム”だからだ。

孤独の深さを知る人間は、
他人の成功に、嫉妬だけでは終わらず、
いつか“祈り”を送ってしまう。

僕たちは、いつの間にか奪い合いの共犯者になっている。

報酬がなくても熱狂してしまうのは、
世界のどこかで孤独と闘う人を、僕たちは放っておけないからだ。

共犯者だから、熱狂できる。


最初から読んで戻ってきてくださった方、ありがとうございます。

2025年12月ポーカーアドベントカレンダーということで、2025年を振り返る記事にしました。

今年はポーカー界も社会現象も多くのハイライトがありました。「他人に熱狂する理由」というひとつの主題に、大ヒットした作品と象徴的な出来事を練り込んでみました。

各作品のネタバレは避けますが、

  • 鬼にも鬼の成り行きと過去、(歪んだ)正義がある
  • 往く宛のない孤独、信じた刹那の裏切り
  • 芸の求道、憧れと嫉妬

そんなテーマはポーカーにも通じると思いました。

そして大阪万博の大成功や初の女性首相誕生は、日本に流れる重たい空気を変えたように感じます。Shiinaさんとミサワさんが際立った偉業、何十年経っても語り継がれることであることは間違いなく、これからの活躍が益々楽しみです。

そのほかにもプレイヤー基盤は育ち、トーナメント優勝者・入賞者、海外キャッシュゲームでのグラインダーも明確に増えました。ポーカールームも日本全国に出店、これまで一部店舗に留まっていたPLO・MIXゲームイベントへの挑戦、そしてリングゲームプレイヤーの海外導線も生まれました。

大会・イベントは多様化し、参加費・プライズの大きさだけではなく、独自のブランド・価値を志向する事業者が増え、ポーカー文化振興議員連盟発足という大きな動きもありました。タッグ戦の流行、大規模なチーム戦を配信で応援する姿は、日本ポーカー界のコミュニティカルチャーを示しました。

また動画配信サービス事業者はポーカー番組の制作に本格的に取り組むなど投資を強めており、そうした予算化に伴いタレント・スポーツ選手・YouTuber・インフルエンサー・MCといった演者も多数登場するようになりました。

学習環境も、個人コーチング以外にもティーチングコンテンツ・サービスやオフライン・オンラインともに学習コミュニティが立ち上がり、継続するなど発展を見せています。

このように2025年のポーカー界は、本当に盛り上がりを見せました。2014年からポーカー界にいた人間として、信じられないような環境になってきています。

来年2026年も明るく景気の良い話題がひとつでも多く日本のポーカー界に生まれることを願って、結びとしたいと思います。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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PLO戦略家として「理論」「アジャスト」「メンタル」の3つの領域を統合しながらポーカーに向き合っています。
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Enjoy Folding.

Zen Poker – Science x Art x Mental
Hiruma

Trace from:
2018 WSOP Main Event Final Table (photo credit: Joe Giron/WSOP).

著者|Hiruma

Zen Poker Founder — Science × Art × Mentalで意思決定を再設計
PLOの複雑性を構造化し“手の届く戦略”へ翻訳・発信する人
Player/Coach/Event Designer
PLO Genius Ambassador|体験・コンテンツ設計

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