ポーカーアドベントカレンダー2025 11日目|マイケル・アセベイドー|「この卓なら行ける」その慢心がEVを溶かす

日本の熱狂的なポーカーコミュニティの皆さん、そして『ポーカーアドベントカレンダー2025』をご覧の皆さん、こんにちは!

『現代ポーカー理論』の著者、マイケル・アセベイドーです。私は普段、GTO理論の研究やトッププロへのコーチングに情熱を注いでいますが、同時に皆さんと同じ一人のプレイヤーでもあります。GGプロとして世界中を旅し、日々MTTで戦い続けています。

今回、この素晴らしいお祭りに参加できることを心から嬉しく思います。私は日本という国が大好きです。今年、初めて日本を訪れた際、日本の皆さんがいかに真剣にポーカーと向き合っているかを肌で感じ、その情熱に心から感銘を受けました。

アドベントカレンダーの豪華なラインナップに私を招待してくれたKota(@KotaTakagi1326)、そしてこのエキサイティングなイベントを実現してくれたCardologySeeker Startに、心からの感謝を捧げます!

それでは、記事をお楽しみください!

プリフロップの「小さなミス」が命取りになる理由

プリフロップは一見簡単そうに見えて、実はノーリミットホールデムの中で最も誤解されやすく、最も「高くつく」フェーズです。 私がコーチングしているトッププロでさえ、「より多くのハンドをプレイする」という誘惑には勝てず、それが慢性的なリーク(弱点)になっていることがよくあります。これは個別のコーチングのときだけでなく、今回取り上げるようなハイステークスの配信でも頻繁に見られる光景です。

今回選んだハンドは、「たった一つのプリフロップのミス」がいかに悲惨な結果を招くか、その教訓が詰まっています。

私たちは誰しも、参加ハンドを広げる理由を探したがるものです。特にアンティがあるゲームでは、均衡的にもレンジを広げることは正当化されます。 しかし、最大の問題はその「加減」です。 多くのプレイヤーは、適正範囲を超え、広げすぎてしまいます。「アンティがあるから広くてもいい」という理屈は正しいのですが、それがいつの間にか、セオリーを無視してガバガバにプレイするための「言い訳」になってしまっているのです。

普段の私は、ソルバーを回して緻密なソリューションや集合分析と向き合うようなテクニカルな分析が専門です。しかし今回は、初心者からプロまで幅広い方が読むアドベントカレンダーということもあり、いつもとは違うアプローチを取ることにしました。 今回はあえて難解なGTOシミュレーションは脇に置き、「広げすぎたレンジがたどる、悲惨な結末」をお見せし皆さんの記憶に植え付けることに焦点を当てます。

もしより高度な理論やソルバー解析、エクスプロイト戦略を求めている方がいらっしゃれば、現在最終仕上げに入っている新刊『現代ポーカー理論:トーナメントワークブック(仮)』にご期待ください!この書籍では、あるMTTでトッププロが実際にプレイした全ハンドをソルバーで詳細に解析し、徹底的にハンドレビューを行っています。前著『現代ポーカー理論』で解説した理論と実践の内容をさらに具体的に解説している本です。どうぞお楽しみに!

ハンド分析

まずは実際のハンドをご覧ください。Hustler Casino Liveでの1ハンドで、ブラインドは$500/1,000、アンティ$2,000のゲームです。

もし動画をご視聴いただけない場合は、以下にアクションをまとめてありますので、そちらをご参照ください。

アクション

Preflop $500/1,000 + $2,000 アンティ
UTG (Brandon: $390,500) RFI $4,000
HJ (Keating $1.78M) call
BN (Senor Tilt $1.01M) call
SB (Steve: $788,500) call
BB (Martin: $494,000) call

Flop $22,000
SB (Steve) bet $1,000 / call / All-in $784,500
BB (Martin) call / 3bet $69,000 / call(All-in) $490,000
UTG (Brandon) call / fold
HJ (Keating) raise $25,000 / call / call $784,500
BN (Senor Tilt) fold

Turn & River トゥワイス $2,082,000


HJ (Keating) wins $2,082,000

プリフロップ|$500/1000 + $2,000アンティ

スタックは非常にディープですが、$2,000のアンティがあるため、アクションが激化しやすいゲームとなっています。理論上のプリフロップレンジは、通常のキャッシュゲームよりもトーナメントに近くなります。

UTGが で$4,000にオープン。アンティがない環境なら明らかに広すぎるレンジですが、このストラクチャーであれば十分許容範囲と言えるでしょう。

これに対して、HJは でコール。こちらも問題なく、TTであれば3ベットを混ぜることも十分考えられます。

続くBTNは をコール。

後方からのスクイーズが入りづらく、なおかつ相当ソフトなテーブルであれば、ポジションを活かして戦うことも不可能ではありません。ただし、どんなボードやラインに対しても柔軟に対応できる上級者でなければ、基本的にはフォールドするべきでしょう。

SBも でコールしました。

ここはやや疑問が残ります。もし前のコーラーたちのレンジが明らかにルースで弱いと分かっているのであれば、スクイーズしてヘッズアップに持ち込む方が理にかなっています。OOPで3〜4人を相手にポストフロップを戦うのは、エクイティを実現するのが非常に困難な上、BBからのスクイーズによってプリフロップで降ろされる可能性もあります。

そして問題のBB。

でコールし、フロップを見る判断をしましたが、これは明確なミスだと言えるでしょう。

スーテッドとはいえ、あまりに弱すぎます。ギャッパーですらなく、Jも6もドミネイトされやすく、フラッシュを完成させても上フラッシュに負けている展開が頻発します。

たとえ自分がテーブルで一番上手くても、OOPからマルチウェイを戦うのは過酷です。ミドルペア・ボトムペア・弱いフラッシュドローといったディフェンスしづらいハンドを抱え、4人相手では身動きが取れません。たとえトリップスやフラッシュを引き当てても、OOPからバリューを最大化するのは難しく、常に上位レンジを警戒しながらプレイせざるをえません

相手が極端に弱く、例えば のボードで でオールインまで付き合ってくれるような相手だと確信できる状況でもなければ、このハンドはプリフロップでフォールドすべきです。

フロップ |ポット $22,000

フロップでは、まずSBが$1,000のドンクベットフィッシュ寄りのアクションではありますが、許容範囲と言えるでしょう。

続いてBBがコール。この判断は適切です。

さらにUTGもコールし、ここでフルハウスを持っているHJ()が$25,000にレイズ。

ボードが非常にウェットで、各種ドローだけでなくトリップスからもアクションが返ってきやすい状況のため、このレイズは非常に良い選択だったと思います。

BTNは のOESDでしたが、長考の末フォールド。こちらも妥当な判断でしょう。

アクションはドンクベットを打ったSB()に戻ります。

マルチウェイのOOPなので非常に難しい局面です。すでにドミネイトされている可能性は十分ありますが、テーブルのアグレッシブ具合によっては、HJがセミブラフ、もしくはピュアブラフでレイズしている可能性も排除できません。

以上を踏まえると、ここでのジャストコールは適切な選択だと言えるでしょう。

ここでBBが $69,000の3ベットこのようなスポットに直面してしまうことこそが、「プロフロップでフォールドすべき」と言った理由です。この状況ではどのアクションも積極的に取りたくありません。SBはなんらかのドローが濃そうですし、HJもセミブラフをしているかもしません。

それでも、まだマシなのはコールでターンを見ることでしょう。フォールドは流石にできませんが、レイズは悪手です。上のハンドを持たれている可能性も十分ありますし、さらにレイズが返ってきたら降りるしかなくなります。

このアクションに対し、HJがフルハウスをコールに留めたのは非常に良いプレイです。

下のハンドに継続させ、ドローにストレートやフラッシュを引かせる余地を残すという、まさに理想的なトラップと言えます。

アクションはSBへ戻り、SBは のトリップスで$760,000のオールイン

これはあまりにもアグレッシブすぎるアクションです。

もちろんBBがブラフしている可能性はありますが、マルチウェイで3ベットを入れている以上、上位キッカーのJ(AJ, KJ, QJ)を持っている可能性も十分あります。

また、HJのコールドコールもレンジがキャップされておらず、強いハンドが潜んでいる可能性も否定できません。

おそらくSBは、HJのコールをフラッシュドローと読み、トリップスでオールインしたのでしょう。

続いてBBは、弱キッカーのトリップスで非常に難しい決断を迫られます。

そして、長考の末にコール。相手プレイヤーのレンジと戦略、そして各相手プレイヤー見た自分ともう1人のレンジと戦略、それらを何往復も思考した結果「SBはコンボドローだ」という読みに行き着いたのでしょう。(実際、SBのラインはっぽく見えます。)

そして、フルハウスのHJにとっては、ご馳走のような状況です。

トゥワイスの結果、HJは 約200万ドル(約3億円) のポットを総取りしました。

教訓:ここから何を学ぶか

  • テーブルが「ぬるい」からといって、プリフロップのレンジを広げすぎないこと。 プリフロップでの些細な「広げすぎ」は、後のストリートでレンジの歪みとなって雪だるま式に問題を大きくします。例えばフロップでチェックレンジが弱くなりすぎると、ターンやリバーで適切にディフェンスすることが困難になります。同様に、プリフロップの時点でレンジが広くなりすぎると、そのハンドの残りの間、ポストフロップでずっとツケを払わされることになるのです。
  • 弱いフィールドに対して、レンジ底部のインディファレントなコンボや、そのすぐ隣のコンボをレンジに加えることは利益的になり得ますが、レンジを広げるにも限界があります。 ある地点を超えると、追加したコンボはEVを増やすどころか、大幅なマイナスになってしまいます。特にマルチウェイになりやすいテーブル(かつリバースインプライドオッズが大きい)では、しっかりとエクイティを実現でき、ナッツになりやすいハンドを中心にレンジを構築すべきです。逆に、簡単にドミネイトされてしまうハンドは、もっと慎重に扱うべきです。ヘッズアップなら問題なく戦えるハンドでも、マルチウェイポットでは利益を出せないことも多いのです。
  • ポジションの重要性は不変です。 アウトオブポジション(OOP)でエクイティを実現するのは難しく、マルチウェイになれば、どれだけスキルがあってもそれは過酷を極めます。テーブルがソフトだからといって、OOPのレンジを広げてはいけません。マージナルなハンドでは、プレイアビリティを優先してください。もしスクイーズしてアイソレートする価値があるならそうすべきですし、そうでないならシンプルにフォールドすべきです。OOPからマージナルなハンドでマルチウェイポットに参加し続けることは、たとえ強いプレイヤーであっても、最も効率よくEVをドブに捨てる方法の一つです。

結びに

ポーカーアドベントカレンダー2025、明日の担当はArashiさんとのことです。

彼は、今回のアドベントカレンダーを共同企画・運営してくれているポーカー学習コミュニティ「Seeker Start」の創設者でもあります。

5月に日本に行った際には、JOPTのTag Team Highrollerでも同卓させていただきましたが、そのときの熱量と探求姿勢はいまでも印象に残っています。

明日の投稿がどんな内容になるのか、今からとても楽しみにしています。

皆さん、メリークリスマス!そして来年が、ポーカーの理解と技術が大きく前進する一年となりますように。

これまでの記事はこちらからご覧いただけます。

翻訳:髙木皓太

著者|マイケル・アセベイドー
『現代ポーカー理論』著者。理論家としてトッププロへのコーチングを行う一方、GG Proとして世界各地のMTTで実績を重ねる現役プレイヤーでもある。
PioSOLVERの開発協力をはじめ、ポーカー理論の体系化とコミュニティ発展に寄与してきた貢献は枚挙にいとまがない。

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