GTOを学習する上での前提とは 『現代ポーカー理論』序章公開

本記事は『現代ポーカー理論』の序章を抜粋したものです

本記事はマイケル・アセベイドー著『Modern Poker Theory』の序章の抜粋です。

『Modern Poker Theory』の日本語版の詳細はこちら!!

 

語られぬ真実

何年もの間、トッププレイヤー達は一般には販売されていないソフトウェアを利用していましたが、今ではポーカーの世界も進化しています。ソフトウェアはますます洗練され、一般の人々も簡単にアクセスできるようになりました。今日では、最新のエクイティ計算機、プッシュ/フォールドレンジを表示するアプリ、レンジ分析ソフトウェア、EVの計算ができるソフトウェアやGTOを解析するソルバーを使用することができるようになっています。

私が初めてオンラインプレイを始めてこれらのツールを知ったとき、トッププレイヤーとはこれらのツールをマスターし、あらゆる状況の背後にある計算を知っている人たちのことだと思い込んでいました。しかし、それは全くの間違いでした。これらの高度なツールが普及しても、ほとんどのポーカープレイヤーは、それぞれのツールを使いこなすために何千時間も費やしたいとは思っていませんし、一週間もかかるGTOの計算を行うために専用のサーバーをセットアップしたいとは考えません。

では、ワールドクラスのプレイヤーは研究室で何千時間も費やすことなく、どうやって最先端のポーカー理論を知ることができているのでしょうか?

彼らは作業を外注しているのです。数学者やゲーム理論の専門家に依頼して、この作業を代行してもらうことで、自分の好きなことに時間を割くことができます。 私は彼らのために最先端のコンテンツを作成してきた専門家の一人ですから、このことが真実であることをよく知っています。ここ数年、私はオンラインのステークスグループのためのポーカーの理論について解説したビデオやウェビナーを作ったり、生徒のために記事を書いたりしてきました。また、世界的なプレイヤーに詳細なGTOソリューションを販売したりもしました。

自分はプロのポーカープレイヤーであると私は皆に話していましたが、いざここ数年の自身の活動内容について書き出してみると、自分がポーカープロであるとは言い難い状況にあること気が付きました。ライブでもオンラインでも、ここ数年の私のプレイ量は笑えるほど少ないのです。私は生徒に80%のプレイと20%の勉強の比率を推奨していますが、私自身はおそらく正反対の比率です!それでも、私は良い結果を残してきました。PocketFiveというオンラインポーカーのプレイヤーランキング表では世界117位にランクインしています。

ポーカーに関する活動の中で、実際にプレイすることにかけている時間が最も少ないのだとすると、私自身プロのポーカープレイヤーを名乗れないかもしれません。ポーカーをプレイすることが非常に重要であることは十分に理解していますし、もしプレイしていなかったら、私が今しているように生徒達の学習を手助けすることはできないでしょう。ポーカーのコーチにとって、最新情報を入手し生徒たちがテーブル上で何をしているのかを知ることはとても重要です。

私はポーカーというゲームが大好きですし、この本を書き終えた後にしたいことと言えば、自分が学んだ全てのことをポーカーテーブルでぶつけること、ただそれだけです。 『現代ポーカー理論』には、長年にわたる私の研究とコーチングの成果が詰まっています。世に出ているほぼ全てのポーカーの理論書は、しっかりとした理論を提唱している一方で、その理論をどう実際のプレイに適用すればよいかについての考察は欠けていました。私は本書に心血を注ぎ、そういった理論書とは一線を画すように最善を尽くしました。

私の目標は、ゲーム理論という難題を紐解き誰もが簡単に理解し使えるようにすることです。計算作業ばかりの生活は終わりで、代わりに自分たちのなすべきこと、つまりプレイに時間を使えるようになります!

ポーカーは一体どういうゲームなのか?

ポーカーをプレイする理由はさまざまです。人付き合いを楽しむためにプレイする人もいれば、大きなブラフをかましたり、相手を出し抜くスリルを味わうためにプレイする人もいます。トーナメントでの優勝やブレスレット獲得を目指してプレイする人もいれば、生計を立てるためにプレイしている人もいます。どのような動機であっても、お金を失うためにポーカーをプレイしているわけではないので、ポーカープレイヤーは自覚のあるなしにかかわらず、「利益を生み出す、利益を最大化する」という目標を共有していると言えます。

利益とは何でしょうか?

 

利益 = 相手プレイヤーのミス − 自分のミス

 

マネー・メーカー効果(※訳注:2003年、クリス・マネーメーカーという青年がWSOPと呼ばれるポーカーの世界大会の予選に$86で参加した。彼は予選から勝ち続け優勝し約2億7,026万円を獲得する。少額のエントリーで一躍大金持ちになったという成功物語が世間の想像力をかき立て、米国のポーカー人気の波を作り出した。これをマネー・メーカー効果と呼ぶ。)後からブラックフライデー事件(※訳注:2011年、アメリカ司法当局がアメリカ国内で事業展開していたオンラインポーカー事業者を違法インターネットギャンブル禁止法違反で訴追し、これらのサイトの米国内での活動を停止させた。これによりアメリカでのオンラインでお金を賭けてポーカーをすることができなくなり、オンラインポーカー業界の勢いが一気に衰えた。その日が金曜日であったため、ポーカー業界ではこの日のことを「ブラックフライデー」と呼ぶ。)が起きるまでの間にあったオンラインポーカー全盛時代のように、とにかく下手なプレイヤーが多い環境で大金をかけて戦うのであれば、相手が自分より下手なプレイをしている限り、自分も下手なプレイをしていても大金を稼ぐことができます。その逆もしかりです。仮に世界で9番目に優れたプレイヤーだったとしても、より上手い8人のプレイヤーとしか対戦できないとしたら破産してしまうでしょう。

現在のポーカー界では、エクスプロイトプレイでも多くのお金を稼ぐことはできますが、平均的なプレイヤーのスキルレベルが上がりつつあり、下手なプレイヤーに対して上手いプレイヤーの比率が増加し続けています。エクスプロイトプレイをしようとすると、用心深い上手いプレイヤーは逆にこちらをエクスプロイトしようとしてきます。このため、私たちの他プレイヤーに対するエッジは小さくなってきています。結果として、私たちは自分自身のプレイに注意を払わなくても良いなどという贅沢はもはや言ってられません。ここ数年で適応と改善に失敗した多くの有名な 「トッププレイヤー」たちは、ゲーム全体のレベルが自分たちを追い越していくのを目の当たりにし、勝てなくなったために辞めたり、下のレートに移動したりすることを余儀なくされました。

利益の計算式を構成する2つの要素(自分のミスと相手プレイヤーのミス)のうち、相手がどのようにプレイするかについては、ソフトで稼ぎやすいゲームを選択すること以外にこちらがコントロールできることはありません。しかし、自分のミスを最小限に抑えることはいつだって可能です。

では、どのようにして利益を生み出し、それを最大化すればよいのでしょうか?

  • 自分自身のゲームにおけるリークを修正し、他プレイヤーのリークを見つけ出す。
  • そのリークに付け込むため、相手の戦略にアジャストする。

なすべきことはこれだけです。以上の観点がGTOを学習する上で前提になります。バランスのとれたプレイや均衡戦略についてのみ考えるのではなく、ゲームの核心を理解しその知識を積極的に利用して価値を生み出していきましょう。

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